和錠がついている蔵ってカッコイイな
感じないっていうのは、本当に幸せなことですね。サークルの旅行で皆と来ているとある地方都市。歴史的な建造物が見られ、特に古い物に興味がない人でも、観光として十分に楽しめる土地ですが、私はずっと落ち着きません。お城とか時代劇が好きな先輩は「和錠がついている蔵ってカッコイイな」と目を輝かせて話していますが、その蔵の上の方、窓のようなところからこちらを見ているあの二つの目はなんでしょう。私と目が合うと、先ほど先輩が格好いいといっていた錠が、急にガチャガチャと音を鳴らしだしました。でも、他の人たちはまるで気が付いていません。
古い町には歴史があり、歴史の分だけあやかしの類も多く存在しています。多くの人はその存在には気が付かず、同じ場所に居ても問題なく共存できます。でも私のような見えてしまう者にとっては、あやかしは驚かしてきたりちょっかい出して来たり、もう慣れたとは言っても、やっかいな存在です。皆と一緒に町並みを歩いていくと、私が進む先の建物の鍵穴を、ガチャガチャと鳴らしてあやかしも進んでいきます。聞こえないふりをして真っ直ぐ前を見て歩いても、ちょっと先で必死になって鍵穴に爪を突っ込んだり、とにかく音を出して私の反応をうかがっているあやかしの姿が見えます。この町のあやかしは鍵に執着があるのでしょうか。
肩からかけていたトートバッグの内ポケットをなんとなく見ると、なんとそこに入れておいた自宅の鍵に、今にも伸びそうなあやかしの手が迫っていました。他の人たちに気がつかれないようにその小人のようなサイズのあやかしを払い落とし、トートバッグのファスナーをしっかり閉めなおしました。
夕飯の時に先輩から、この町は刀作りや錠前作りが盛んだったと聞かされました。なるほど。鍵に対するあやかしたちの思い入れが、なんとなくわかった気がしました。
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最終更新日:2017/03/13